全力疾走できる瞬間を待ち侘びて。
この三連休は熊本に帰った。
我慢の三連休なんて知るかと思った。
国境ひとつ開けられない。
何ひとつお仕事のできない日本国のために何かを頑張る気が一ミリも湧いてこなかった。
だから、ささやかな抵抗で熊本に帰った。
金曜日の新幹線。
ケチって時間変更の効かないチケットを買ったのが運の尽き。
仕事の兼ね合いで、さらに地下鉄間違えて私が新大阪に着いたのは、新幹線が出るまでぽっきり4分の時間だった。
せめて改札をくぐれば何とかなる。
改札さえくぐれば、時間切の切符も有耶無耶にさっさと乗り込んでしまえる。
そう思い新幹線の改札めがけて走ったものの、
そこに着いた時まだ残り1分の時間が残っていた。
どうしてそうしようと思ったのはわからなくても、28番乗り場から、端っこの21番乗り場に駆けこもうとすると、圧倒的な階段が聳え立っていた。
スーツケースにリュックサックに仕事の鞄とお土産の紙袋。
残り30秒。
その時、スーツケースを抱え上げ私は一目散に階段を駆け上がった。
新幹線の閉まりかけるドアにスーツケースを蹴り入れて飛び込んだ私は、その時バックパックひとつで中国大陸を駆け抜けて全力疾走していた自分の姿の後ろ姿を捕まえた気がしたのだ。
新幹線のドア越しに倒れ込み、ゆっくり呼吸をする時、私は一瞬だけこの数ヶ月の鬱屈とした全てから解放されていたのだ。
全力疾走。
絶体絶命の中で走るあの瞬間。
どうして私は、あんなにも中国を旅することをやめられなかったのかと考えたら多分答えはここにあったのだと思う。
何もかも忘れて目の前のピンチに向けて駆け抜ける緊張感とスピード感。
駆け抜けて行く瞬間は何よりも濃厚だ。
全力疾走できることが少なくなった。
でも人生には全力疾走することが必要だ。
だから、私は全力疾走していたくて、その瞬間のためだけに狂ったように旅に出ていたのだと思う。
いまも同じだ。
すっかり錆びついた今の私にはもっともっと刺激的な全力疾走が必要だ。
そろそろアップを始めるよ。
助走をつけて、どこまでも走っていけるように。
そろそろこの停滞期と手を切って、淀み切った空気を掻き回して追い風にしていかなければいけないのだ。