中華圏への移民を目指すブログ

中華圏への移民を目指す女のブログです、

ロシアの万年筆と大阪の街

 

先日、人事異動になった。

端的に言うと私はパワハラクソゴミ上司とその狗(イヌ)から華麗におさらばして、愉快なおっさん達のいる花形チームへの異動をかちこんだ。

 

発表を聞いた時は、ただ上の役職の人の電話だったから無礼のないように話すことしか頭になかったけど電話を切った途端その場に座り込んだ。

 

そして、そのまま動けなくなってしまった。

猛烈に頭が痛くなって目を閉じてそのまま耐えること30分。

 

なんとか立ち上がると、

それまで見えていた世界がガラリと変わって見えた。

 

今まで3色くらい見えていた世界が100色くらいの鮮やかな色使いに変わり、

立体的に見えるようになってきた。

 

見えるもの全部がそう言うふうに見えるから視界がくるくるする。

 

そして、シーンと静かになった。

 

終わった。

 

終わった。

 

終わった。

 

石の上にも三年、という諺を心の支えに、

後何年かはこのパワハラクソ上司の理不尽な行いや仕打ちに耐え抜く覚悟を決めて戦闘体制に入っていた私は突然の終戦宣言に文字通り頭も体もついていけていなかった。

 

「君、頑張ってたから。営業所のいろんな人が、君は十分頑張ってて君がどれだけ自分の力が及ばないところで理不尽を強いられてるのか教えてくれたから。

みんなみんな、君のこと本当に心配してたよ。

それで私のところまで声を上げてくれた人がたくさんいたこと忘れないで。

君の頑張りはみんな見てたよ。

次の部署、仕事の難易度も忙しさも上がると思うけど、君なら大丈夫。

理不尽とか不公平な人間関係に耐え抜いたこの一年の方がよっぽど辛かったと思う。

存分に力と個性を発揮できる君を見ること楽しみにしてるからね」

 

そう言われた言葉が頭の中をくるくる回って何もできなかった。

 

映画、ショーシャンクの空で釈放された囚人が自由な身になったものの何をすればいいのかわからなかったように私は何もできないし言えなかったのだ。

 

地下鉄に乗り込んで駅一つ一つにワクワクした。

 

今までは死んだ顔でただ家に着くのを、会社の最寄りに着くのを待つだけの地下鉄が、一つ一つの駅で降りたいくらいにワクワクする時間に変わった。

 

嬉しくて嬉しくてホッとして帰りの地下鉄でポロポロ涙が止まらなかった。

 

ああ私は一年もこんな綺麗で楽しくて面白そうな街に居たのに、

毎日やり過ごしてなんとか生き抜くのに夢中になるしかなくて。

 

何にも感じなくて、

心が枯れ果てていたのだと思った。

 

そのまま家の最寄りで降りなかった。

 

梅田の街へと走った。

 

人の喧騒と、色とりどりの店を。

いつもは素通りするけど、一軒一軒見て行った。

 

どのお店にもキラキラするもの欲しいものはあって、すぐに財布の中の現金は尽きた。

 

そして、大きな本屋の中の万年筆専門店でショーケースに入ったキラキラ光る魔法の杖のような不思議な万年筆を見つけた。

 

パワハラ生活の時、お金だけは貯まるのに必死で週の生活費を切り詰めて、食費を切り詰めて。

 

上司と同じように自分が自分を追い込んでしまっていたのだと思った。

 

このキラキラした万年筆だって、もしも私が昨日までの私なら視界も入らずにモノクロな世界の端っこの方を気がつかれることなく通り過ぎていったのだろう。

 

そんなことを思っていたら、自然に高級万年筆の店員さんを捕まえて欲しい万年筆を全部ショーケースから出してもらった。

 

高い万年筆の試し書きを一筆一筆これまた高級そうな紙に連ねていくたびに自分が人間に戻っていく気がした。

 

そして、この日私は一目惚れした宝石のような万年筆を一本買い上げた。

自分が自分に勝手に課していた過酷な生活費二週間分くらいのお金が一瞬でレジのキャッシャーの中に消えていった。

 

でも、本当に私は幸せで幸せで仕方がなかった。

 

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ロシアのメーカーの万年筆で日本ではまだ珍しいらしい。

一本一本手作りでラメの入り方やグラデーションが違ってこの世界のどこにも同じものがないという。

 

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万年筆は家に帰っても私の手元の中でキラキラキラキラと輝いた。

 

さらに、夜電気を消すとコバルトブルーに光り輝いた。

 

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文字通り贅沢品。

 

そんなものを手にして私はようやく、

あの地獄のような日々から抜け出すことができたのだと幸せがとめどなく溢れ出した。

 

いつまでもいつまでも。

好きな歌の歌詞を一つ一つを書き連ねながら一人で幸せを噛み締めながら泣き続けた。

 

和田アキコの、あの鐘を鳴らすのはあなた

橘いずみの、window

安全地帯の、恋の予感

 

 

さわやかな希望の匂いが今日の私には満ちていた。

 

この先、自分の人生がどんどん良くなるようにワクワクする。

自分の人生の幸せを信じられる心が戻ってくる。

 

私の人生の夜明け、黎明期。

それが今なのだと。

 

やっと落ち着いてこれを書いてる私の横でも、

ロシアから私の世界と手元に飛び込んできた舶来物の万年筆はキラキラと輝いている。

 

この電気を消した時にコバルトブルーに輝くために光をその身に蓄えながら。