優しいのはタクシーのおっちゃんだけ。
今日はこの一週間で最もクソみたいな1日だった。
ひたすら上司のじくじくとした嫌味に耐えた。
でも彼は出世のために良い人を演じなければいけないので私に暴言を吐くことができない。
哀れな人だと思う。
なんか、同行してくれるとか言い出したのでなんか教えてもらえるんかなあ、と期待したけど、ただ歩き方とか振る舞いとかにケチつけるだけで、他のことは何も教えてもらえなかった。
これを深い意味のあるありがたい教育だとは思わない。
でもこうなることは大体わかっていたので、
私は頭の中で落語を唱えていたら終わった。
でも、今日肝を冷やしたのはスマホを無くしたことだ。
それも会社のスマホを無くしてしまった。
大急ぎで会社を抜け出したものの、タクシーが拾えない。
もしもこのままスマホが見つけられなければまたあの上司にジクジクとイヤミの末に始末書だ。
本気で泣きそうになる。
明日会社辞めるか。
そしたら怒られなくて済むやん!
と、頓珍漢なことを言いながら涙が止まらない。
そんな時、回送中のタクシーが止まってくれて乗せてくれた。
今にも泣きそうな私に向かって、
タクシーのおっちゃんは親身に話を聞いてくれた。
「きっと見つかるよ。頑張って探すんだよ!
それに見つかんなくたってそんなこと大したことじゃないんだからさ。」
なんとか私に寄り添ってくれようとしてるのがとても嬉しかった。
半泣きで取引先にたどり着いて探し回ったら、意外とすんなり出てきた。
見つけてほっとしてら自分が情けなくて泣けた。
疲れ果てていたし、会社にパソコンを置きっぱなしにしていたので、帰りもタクシーで会社に戻った。
帰りのタクシーのおっちゃんも気さくな人で、
私の話をたくさん聞いてくれた。
「僕も昔は営業やってたなあ。
新人の時、上司がそろそろお前も仕事ができるようになってきたから遠方の出張に連れてってやるって言ってくれたその出張で、大寝坊して出張がおじゃんになっちゃった。
でもそんなもんだよ。
今日スマホ見つかったならよかったじゃない。
良かったんだから忘れてしまえばいいや。
上司の言うこと、自分で失敗したこと一つ一つ真面目に反省してたらキリないもん。」
思わずポロポロ泣いてしまった私を、
おじさんはミラー越しに笑ってみてた。
1240円払ってタクシーを降りた。
最悪な1日だった。
帰ってからもやらなきゃいけない仕事はてんこ盛りだった。
でも、よかった。
スマホを探しに行った往復20分程度。
私は初めてこの大阪の街で人の優しさに触れられたのだから。
友達は欲しくない。
寂しいけど、繋がりは求めていない。
あと一年半したら出ていくんだから。
毎日こんなに悲しいんだから、
こんな場所に根を張るようなことはしたくないのだ。
それでも、人の優しさが恋しい。
ここでの生活は最悪だ。
幸せな瞬間なんてひとつもない。
大都会の中で会いたい人に会うこともできずに、1人きりの毎日だけど。
タクシーのおっちゃんだけは優しかったと覚えておきたいと思った。